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ボスポラス・クルーズビラハネは女こどもの入る店ではない。男の世界である。男にしても「若造」は肩身が狭そうにしており、一人前に扱ってもらえるのは30歳代以上という感じになる。「男の世界」がじわじわ浸食されつつある日本から見ると、実にうらやましい空間である。
従業員は給仕をするガルソンのほか、主にテーブルの後片付けをする係の「小僧」がいることも多い。たいていは制服が違うのですぐわかるはずだ。彼らは好きなように「パシらせて」構わない。なじみの客は片付け係の小僧を冗談交じりに小突いたりして遊んでおり、私もタバコを買いに行かせたりすることはよくやっている。
こういう「お使い」をさせる場合、金は先に渡しておく。品物(例えばタバコ)と釣りは皿に載せて届けられるであろう。釣りも品物もきちんと届けられれば、当然の対価としてチップを渡す決まりである。2004年の時点の価格では洋モク1箱が300万リラ(約250円)程度なのだが、この場合50万リラが適当であると思われる。愛想が良ければ1、2本お裾分けする。もし釣りを返さなかったりしたら、はっきり文句を言うべし。こうしてサービス業の勘所を身につけてゆくのである。
ビラハネの店内に女はいないから華やかさは微塵もないが、客層は必ずしも悪くない。少なくとも店構えのこざっぱりした店なら、客層は中流以上のトルコ人であり、職業もそれなりの人が多い。
中流以上のトルコ人ならば休暇や出張ついでの旅行先をいろいろ知っていて、次の休みの旅行に関する情報はオトーサンたちの重要な話題になっている。交通手段や手頃なホテルの情報に関しては、下手をすると観光産業に従事する人間より詳しいくらいである。実は、この資料の情報源も少なからぬ部分をこうした「ビラハネ人脈」によっている。
大きく分けて2種類ある。いずれにしても料金は高くないので、店構えのきれいなところを選んだ方がいい。
ひとつはビラ(bira:ビール)とチェレス(çerez:cerez:ナッツ)ぐらいしか出していない店。酒類は他にも置いているかもしれないが、つまみはほとんどない。こういう店では家で食事をした後にふらりとやってきて飲みはじめる人も多い。

もうひとつは充実したつまみを置き、アルコール飲料の種類も豊富な店。こちらのタイプの店ではメゼ(meze:酒のつまみ)もひととおり揃っており、内容的にはレストランに近いところもある。ただしレストランとは違い、メゼをテプシ(tepsi:大きなお盆)に載せテーブルに運んでくる店はまずない。料理名で注文するか、わからない場合にはほとんどの店先に用意されている冷蔵ショーケースを見て選ぶことになる。
こうしたビラハネにはケバプ(kebap)の種類がたくさんあるところが多い。ビールの場合には辛目のアダナ・ケバプ(Adana Kebabı:Adana Kebabi)がいける。辛いものが駄目な場合、ウルファ・ケバプ(Urfa Kebabı:Urfa Kebabi)あたりが無難。
海に近い街では店内の壁に注目。冬場を中心に「Hamsi Tava Bulunur」の貼り紙が見つかるかもしれない。このハムシ・タワ(hamsi tava)はカタクチイワシの揚げ物で、非常に日本人好みな一品。
平均的な料金はメゼ一皿200円、ケバプ類は400円前後になろう。そして肝心のビールだが、たいていはジョッキ1杯150円前後であり、200円を超える店は少ない(すばらしい)。
ビラハネを名乗っているものの、料理も出すビラハネでは客の半分ぐらいがビール以外の飲み物を飲んでいる。一番多いのはやはりラク(rakı:raki)。ドゥブレ(duble:通常グラス1杯分、250円前後)とハーフ・ボトル(35dl、1000円前後)、フルボトル(70dl、2000円前後)を選べる。アルコール度数50%近いラクの大瓶を平気で1本あけてしまう剛の者も結構いるから、うっかりお付き合いすると翌日悲惨な目に遭う。
その他の飲み物としてはジン(cin)、ウォッカ(votka)、ウィスキー(viski)あたりをほとんどの店で用意している。ウィスキーはドゥブレで500円ぐらいするが、ジンやウォッカならドゥブレで200円程度。なお、ビラハネでワインを用意している店は少ない。

ビラハネはフトボル、すなわちサッカーを観戦する場所を提供するという、トルコ共和国における極めて重要な役割を担っている。保守的な地域ではイスラムの断食月に休業するビラハネもあるが、フトボルのある日だけはオープンする店もあるくらいだ。トルコのフトボルはビラハネ無くして成り立たない。
フトボルを観戦するために、ほとんどすべてのビラハネには大型のテレビやスクリーンが備え付けられている。念入りな店になると店内の両側にテレビやスクリーンを配置し、すべての客が体を捩ることなしに観戦できるようにしている。
フトボルのある日のビラハネは「なんでもあり」。したがってゆっくり食事をすることは不可能だが、ビラハネをもっとも楽しめることは確かだ。贔屓のチームのグッズを身につけていたりすれば相当に盛り上がること請け合い。同じチームを贔屓にする客から差し入れが来たりしてしまう。
しかし、調子に乗っていると飲み過ぎて辛い目に遭う危険もある。諸刃の剣。素人にはお勧めできない。そのような危険を回避してビラハネを楽しむためなら、トルコ語の入門書を半分くらいやっておく価値がある。
どうしてもビラハネに入りたい女性はどうするべきか?ビラハネは「男の世界」であるが、「女が入ってはいけない」と法的に制限されているわけではない。社会規範としてトルコ人の女性は入らないということだ。
外国人の場合なら取り立てていやな顔をされることもなく、ほかの飲食店と同様に迎えてくれるだろう。しかし「動物園の珍しい動物」を見るような視線で見つめられる可能性は多分にある。もし男性と一緒ならば、かなり安心できる。留意すべき課題はトイレ。女性用のトイレは用意していない店もある。
ほとんどの場合にはこれといって問題が起きるわけではないが、トルコの基準から見ればかなり変わった行動になってしまうのは確かである。外国人であっても、女性にはビラハネの利用を積極的に勧める気はしない。