http://turkey.tabino.info/ (1):表紙
トルコでどこかへ行くとなったら、乗り物はほとんどの場合長距離バス、オトビュス(otobüs:otobus)です。実はどうしても「バス」とは書きたくなかったりするのだけれど、普通のバスとどこが違うの?
通常はチケットを購入してから出かける。当日でもどうにかなることは多いが、基本的に席は指定なので満席の可能性もある。できれば前日までに購入しておいた方が予定もはっきりして都合がいい。まず最初の課題はチケットをどこで購入するかということ。
大きな街の場合、バスターミナルだけでなく中心街にもバス会社のオフィスがある。オフィスの窓ガラスにはバスの行き先の地名がずらーっと書いてある。オフィスの中ではこれからバスで出かける人たちが待っていたりするので、トルコ語が分からなくてもすぐにそれとわかると思う。しかし、注意して見ていると同じようなオフィスはたくさんあり、どこでチケットを購入したらよいのかわからなくなる。
「オトガル(otogar:バスターミナル)」へ行ってみるとよくわかるが、実はトルコにはとんでもない数のバス会社がある。「トルコははじめて」という人がいきなりオトガルへ行ったら間違いなく大混乱、あるいはたちの悪い客引きに引っかかって条件の悪いバス会社に乗らされる羽目になる。最初は事前にチケットを用意して途方にくれることなく旅をはじめたいものだ。
そこでまずは、バス会社の選択が必要になる。バス会社の数は途方にくれるほどあるものの、どれも同じというわけではなく、会社ごとにサービス水準や使っているバスの種類に大きな開きがある。
しかし、サービス水準の高い、いわゆる「ブランド」の会社となるとだいぶん限られてくる。まずは街の中心街で、ここで紹介するような看板を探してみよう。どの会社もWebサイトはトルコ語のみだが、ロゴを知っているとトルコに到着してから簡単にオフィスを見つけられる。
馬上の人が弓を引いているロゴ。最高級のバス会社。料金は高いがサービスは抜群。使っているバスはドイツSetra社製の高級車。
Varanに次ぐ2番手。黒海地方に強い会社。サムスンやトラブゾンへ行くのであれば、まずはこの会社から。
青い羊のマーク。マークの上に創業年をあらわす「1926」という数字が入っている(老舗)。ブルサに本社のある大手バス会社。ブルサを中心に西部トルコでは抜群の路線網を広げているので、一番乗る機会が多いと思う。
パムッカレの近く、デニズリを本拠にする会社。イズミル、デニズリ周辺からエーゲ海、地中海西部の地域に強い。
黒海方面に強いが、トルコ全土にネットワークを広げている。会社が大きいせいか、路線ごとの「当たりはずれ」がやや大きい印象がある。
ブルサに拠点を置く比較的新しいバス会社。今のところ路線はイスタンブル、ブルサ、アンカラ、イズミルの相互間に限られているが、車内サービスの水準は高い。
まずはこれらの会社のオフィスを探してみよう。もし行きたい街への便がなくても、こういう会社なら良さそうな別の会社を教えてくれる。
「安全な旅行のために」のページで述べたように、トルコの旅行では交通事故の危険をそれなりに考えておかなければならない。これらのバス会社なら従業員の教育や車の整備もしっかりしているので、少なくとも自爆事故の危険はかなり減らせるはずだ。
ここで紹介したバス会社はいずれも相当広い路線網を持っている会社である。運行している地域は限られるものの、ほかにも水準の高いバス会社はいくつかある。それらは各地域の説明記事の中で取り上げる。
バス会社の事務所で切符を買うときのポイントをまとめてみる。
飛びぬけて高いVaran、Ulusoyをのぞくと、100kmあたり400円程度。前の項目で紹介したバス会社なら、まずぼられることはない。そしてほとんど定価だが、若干の値引きに応じてくれることはある。学割を使えることが多いので、学生の場合には国際学生証を用意しておく。
バス会社の事務所で買ったチケットに書いてある出発時刻は原則的にその事務所を出る時刻。しかし、必ずしも目的地までのバスがオフィスの前から出るというわけではない。
ほとんどの場合には、オフィスからマイクロバス(無料送迎バス)でオトガル(バスターミナル)まで送ってくれる。これをセルヴィスと呼んでいる(正確にはシェヒル・イチ・セルヴィス:şehir iç servis:sehir ic servis)。
大きな街では市内のあちこちにバス会社のオフィスがある(ビジネス街、主要な住宅地etc.)。こういうオフィスから客を送迎バスで集め、オトガルで大型バスに乗せ換えてから目的地に向かうというシステムになっている。チケットを買ったオフィスよりも別のオフィスの方が都合がよければ、希望の場所から乗ることができる。
セルヴィスはバスに乗るときだけでなく目的地に到着してからも用意されていて、オトガルから実際の目的地に近いポイントまでやはり無料で送ってもらえる。
窓側がペンジェレ(pencere)、通路側がコリドール(koridor)。座席の番号は一番前の列が1-4番、次の列が5-8番となっていることが普通。43-46番が一番後ろ(真ん中にもドアがあるので片側は2席分飛んでいる)。前の方がいいことはもちろんだが、進行方向どちら側の席に座るかということも出来ればリクエストしたいところ。例えば、イスタンブルからアンカラへ向かう場合、右側の席はずっと日当で暑い!
もしひとりの場合、となりの席に座るのはかならず同性になる。トルコのバスでは見ず知らずの男女を同席させないというのが鉄則になっており、この調整のためにバス会社の窓口はものすごい労力を使っている。こういうルールがあるせいで、切符を買うときには実際に乗るのが男なのか女なのかをしつこく念押しされることがある。
トルコ人の旅行者はかなり関心が高い。バスのタイプをよく知っていて、古い型のバスには見向きもしない(あるいは難癖を付けて値切る)。
実際にはバスの型よりも使っているバス会社に依存するところが大きいようで、大手会社のバスは多少古くてもしっかり整備されている。しかし、知っておくとかなり得な場面があるので、主なタイプを説明する。「アラバ・ティピ?(Araba tipi?)」でバスのタイプを聞くことができる。
2004年の時点で最も多いタイプがこれ。メルセデスベンツ・トルコの独自モデルで輸出も行っている。外見の特徴は客室の窓ガラスのうち一番前の列のところに斜めの太い柱が通っていることや、全体に柱が太く無骨な感じがすること。
1990年代中ごろから生産されていて、最近ではマイナーチェンジしたモデルもある。評判の良いバス会社では新しい車が多い。
基本設計は403よりも新しいはずだか、最近は導入されていないようだ。窓側の席の肘掛けが省略され、壁に直接肘掛け代わりの「段差」がついている所など、なんとなく「コストダウン」が進められた感じがする。
403のひとつ前のモデルで窓の面積がやたらとでかい。あまり見かけなくなったモデルだ。
すでに田舎のバスに転落したモデル。いまどきこれじゃあお客さんは乗ってくれない。
日本の高速バスでも見たことある形をしている三菱ブランド。くねくね波打った前面のデザインが特徴。トルコでライセンス生産している。ひとつ前までの三菱のバスに比べると格段に進歩していて、メルセデス403と比べても遜色ないレベルに達していると思う。
三菱ブランドの旧モデル。室内の荷物棚が大きめなのが使いやすい点。こういうところに長距離を走り荷物は床下のトランクに入れるという前提で作られたヨーロッパ車と、長い距離は走らずちょっとした荷物なら客室に持ち込むという前提で設計された日本車の決定的な違いが窺える気がする。このモデルにもはや集客力はなく、短距離のローカル線で使われていることが多い。
バスの車体を作るドイツのメーカー。日本でもときどき走っている。ライセンス生産ではなく輸入車で、このバスを使っている便は料金が高く設定されていることも多い。
Ulusoyがこのバスをたくさん使っていて、通常フロアのStarliner(スターライナー)、2階建てのMegaliner(メガライナー)の2タイプがある。Ulusoyのものはオーディオ、トイレ付きの仕様。
Ulusoyなどで使いつぶしたものが無名のバス会社に買い取られて走っていることもある。かなりぼろぼろになっていて、痛々しい。
最高級バス会社Varanが使っているバスはほとんどこれ。ドイツ語読みの「ゼトラ」ではなく濁らない「セトラ」と呼ばれることが普通。バスの車種としては随一の高級車。Setraという会社はNeoplanと同じようにバスの車体だけを作っている。エンジンやシャシーはメルセデス製。やはり輸入車。
Varanの車はすべてトイレ付きで、航空機タイプの液晶モニタを装備したものや食事サービス付きの便で使用するものなど、さまざまな仕様がある。ネオプラン同様、無名バス会社が使う中古車は整備が悪い。
ドイツMAN車のバス。悪いとは言わない。403とほぼ同等品である。が、メルセデスのバスに比べると乗り心地が硬い。ワシはやっぱりベンツがいい!
同じ時間にいろいろな行き先のバスが出ることも多い。トルコ語がわからない場合には、バス会社のスタッフに行き先をよくアピールしておくと確実。
出発に関しては、トルコのバスは時間に正確。発車時刻ぴったりになると、ひととおり席を確認してすぐに発車する。5分遅れて行ったらバスが待っていることはほとんどない。
荷物をバスのトランクに載せるときや、バスが走り出してから回ってくる案内係に、目的地を聞かれることがよくある。荷物をトランクに収納する場合はよいとして、案内係はチケットの販売データを記載した座席表も持っているのに、なぜこんなことを聞くのか?
実はこのような場合に聞かれる「目的地」というのは、アンカラ、イズミルといった都市の名前ではなく、街の中でどこへ行きたいのかということ。このセクションの前の方で述べたように、セルヴィスは目的地に着いてからも用意されている。市内のどこへ行くかによっては、終点に到着する前にセルヴィスに乗り換えてもらう必要がある。こういうことを確認したいために、何度も目的地を聞かれるのである。
荷物を預けるときにも、途中で降りてセルヴィスに乗り換える客の荷物はトランクルームの中でも取り出しやすいところに置かれる。奥に入れられても探し出してはくれるが...。
都市の名前しか言わなかった場合、通常はオトガルまで連れて行かれることになる。そのオトガルは街はずれの不便な立地にあることも多い。「目的地ではどこに行きたいのか」ということを最初に考えておけば、スムーズに目的地にたどり着け、時間を節約できるかもしれないし、わざわざタクシーに乗らずに済むかもしれない。
荷物を預けてバスに乗り込むと、案内係の人(お姉様だったり、兄ちゃんだったり、いろいろ)が席に案内してくれる。案内係が見つからない場合、座席の番号は通路側の肘掛の下に書かれているのが普通。ときどきダブルブッキングもある。抗議する。
バスの中ではいろいろなものが出てくる。まず、ミネラルウォーターは無料。リクエストすればいつでも持ってきてくれる(スー:su:水)。比較的短距離でほかのサービスがない路線でも、ミネラルウォーターは用意していることが多い。
そして、伝統的(?)なものはレモンの匂いの香水コロンヤ。バスが出発した直後や、目的地に到着する前に配りに来るので、となりの人がやっているのを真似してもらってみよう。しかしこのコロンヤのサービス、最近では少々廃れ気味である。高級バス会社ではコロンヤの代わりに崎陽軒のシウマイに付いてくるようなペーパーナプキンが配られることもある。
コロンヤと反対に最近ほとんどのバスで出されるようになったのは、温かい飲み物。まずは小袋に入ったコーヒーや紅茶のセットとともにプラスチックのカップが配られ、少し後からポットに入れた湯を持ってくる。温かい飲み物だけでなく、コーラやスプライトのような冷たいものも選べる。希望に応じて。
飲み物と同時に菓子類を配ることも多い。レベルの高い会社のバスではいくつかの種類から選べることもある。
バスは2、3時間に1回ずつ休憩所に入る。有名バス会社の場合この休憩所が自分の会社の直営で、品のない客を排除する仕掛けになっている(と同時に儲ける)。休憩所の食堂は有料だが、テラスのあたりで配っているチャイは無料のことも多い。
高級バス会社の夜行便では、早朝に立ち寄るこうした休憩所で簡単な朝食をサービスしてくれることもある。
大きな街ではこれまで説明してきたように市中のオフィスでチケットを購入し、セルヴィスで送迎してもらう方法を使うことが多いだろう。しかし、地方の小さな街ではチケットの購入もバスへの乗り降りもオトガルですることになるし、移動の途中でバスを乗り継ぐときにはやはりオトガルを利用することになる。
大きな街のオトガルは郊外への移転が進んでいる。新しく建設されるオトガルは市街地を迂回するバイパス沿いなどの立地になり、中心街からは遠くなる。
オトガルが郊外に移転してもバス会社はセルヴィスによる送迎をすることが普通なので、ここまで紹介してきた手順を知っていれば困る場面は少ないと思う。中心街への交通手段がわからない場合、利用してきたバス会社にメルケズ(merkez:中心街)までのセルヴィスを聞いてみるのがよい。しかし、オトガルの移転とともにセルヴィスを一律に廃止してしまったブルサのようなケースが、これからも出てこないとは言えない。
郊外への移転とともに、公式な名称がオトガルからテルミナル(terminal)に変わることもしばしばある。会話の中ではオトガルでももちろん通用するが、地図上の表示や道路看板などはテルミナルに切り替えられる。
オトガルにはバス会社のブースがたくさん並んでおり、競争の激しさを反映して客引きも大勢いる。しかし、市中のバス会社オフィスでチケットを購入する場合と同様に、まずは有名どころのバス会社ブースを当たってみるのが無難。
有名バス会社が客引きをすることは少ない(黙っていても客が来るから)。やっていたとしても、制服で、たいていの場合名札を付けている。こういう客引き(案内係と呼ばないと失礼か)はおおむね信頼できるが、私服で、名札なども付けていない客引きには注意した方がいい。言いなりになってしまうと条件の悪い会社に乗らされるかもしれないし、料金をぼられたという話を聞くのはたいていこういう客引きだ。
有名バス会社以外では市中のオフィスに比べると値引きがきくことも多いが、料金の相場のわからない外国人がうまく値切れるとは思えない。
小さな街のオトガルでも荷物預かり(エマネット:emanet)はたいてい設置されている。料金は24時間で100円前後。バスの発着する時間帯はずっと営業している(24時間営業が多い)。バスに乗ろうとする前の短時間ならば、料金を支払って荷物預かりを利用しなくてもチケットを買ったバス会社のブースで荷物を預かってくれる。
飲食できる店はオトガルの規模に応じて変わる。小さな街のオトガルでもチャイの飲める店は必ずあり、シミット(ごまパン)ぐらいは売っている。大きなオトガルでは売店の数も増え、カフェテリア形式のロカンタも備わっている。料金や料理の質はいろいろで、平均的には市中の店の方が優れていると思う。
田舎の村々までくまなく走り回っている。名前のとおりここまで紹介してきたバスよりも車は小さく、30人乗り程度。座席も大型バスに比べれば窮屈だ。それでもトルコをくまなく旅をすると、何度もミニビュスの世話になる。
違うのはバスの大きさだけではない。ミニビュスには車内でのサービスはなく、出発地や目的地でのセルヴィスもない。サービス係もおらず、運転手ひとりで荷物の積み込みから料金の徴収までする。通常、予約というシステムはない。
快適ではないけれど、ミニビュスの窓からはトルコがよく見える。