http://turkey.tabino.info/ (1):表紙
せっかくトルコまできたのに、毎食ハズル・イェメッキのロカンタで済ませて帰ってしまうのは「日本へ旅行にやってきて、寿司もすき焼きも食わずに吉野家の牛丼とラーメンだけ食って帰る」ようなものだ(ちょっと言い過ぎだなあ)。ここからが「すばらしきトルコ料理」の世界である。
トルコではお酒の出るレストランが商売上の接待や結婚式の会場に使われるケースも多く、地方へ行ってもそれなりの規模の町には1軒くらいはある(ないと社交が成立しない)。店の名前は「xxロカンタス」ではなく、「xxレストラン」「xxメイハネシ」という名前になっていることが普通。
メイハネの方はまさに「料理を出すバー」という感じの意味。レストランの看板が「xx Restoran」という、ローマ字を覚えたてのデキの悪い小学生のような綴りで書かれていることもあるが、トルコ語ではこの綴りで間違いない。
地方では誰もが知っている「街一番のレストラン」であることが普通なので、見付けるのは簡単。ホテルで尋ねてもよいし、両替するときに銀行員にでも聞いてみるのもよい(大企業の銀行員や公務員はよく知っている)。
キーワードはイチキリ・レストラン・ヴァル・ム?(İçkili restoran var mı?:Ickili restoran var mi?:酒の飲めるレストランはあるか?)。「街一番のレストラン」なので、当然その土地の名物が食べられる。
それでは、こういう店での「お食事(ここはどうしても「お」を付けたいのだ!)」のしかたをご案内しよう。
ビールはビラ(bira)。ビールのブランドはエフェス(Efes)とトゥボルグ(Tuborg)が一般的。カールスバーグ(Carlsberg)も増えつつある。日本と同様レストランごとに契約しているので、ブランドはまず選べない。もし選べるのならばエフェスが飲みやすと思う。
ワインはシャラップ(şarap:sarap)で、白はベヤーズ(beyaz)、赤ならクルムズ(kırmızı:kirmizi)。トルコでは概して赤よりも白の方がうまい。カワックルデーレ(Kavaklıdere:Kavaklidere)のチャンカヤ(Çankaya:Cankay)と、ドルージャ(Doluca)のヴィラ・ドルージャ(Villa Doluca)が味も無難で比較的手に入りやすい(いずれも白)。チャンカヤは軽くてすいすい飲める感じ、ヴィラ・ドルージャの方はわずかに重め。
一度くらいは話のタネにラク(rakı:raki)を頼むのも良い。「トルコオヤジ」が店で飲むのはたいていこれ。アルコール度数は高く(43~50%)、通常は水で割る。原液は透明だが、水で割ると白く濁るのが特徴。別名「ライオンのミルク」。トルコの場合、酔っぱらうとトラではなくライオンになるわけだ。
ラクは「悪酔い」しやすい。クセも強いので、最初からボトルで注文すると大変なことになる。まずはドゥブレ(duble:通常グラス1杯分)で試してみるのが無難。
飲まない場合、コーラだのスプライトだの、つい知っている飲み物を頼みがちだが、トルコ産のフルーツジュースの方が断然おいしい。ヴィシュネ・スユ(vişne suyu:visne suyu:サワーチェリー)とカユス・スユ(kayısı suyu:kayisi suyu:アンズ)がお勧め。
飲み物がテーブルに来たらここからがトルコメシの本番。巨大なお盆テプシ(Tepsi)、あるいはワゴン載せられて、中華の点心のような小皿(というにはだいぶんデカいが)がやってくる。これがメゼ。
目の前に持ってこられた皿から気に入ったものを選ぶだけなので、説明の必要は少ないが、代表的な(というより私の好きな)メゼの種類を紹介。ほとんどのメゼは「冷菜」である。そして、必ずしもメゼの仲間とは言えないものの、一緒にテプシに載ってくるものも入っている。まずはどこでも置いていそうなものから...。
これは定番。素材はいろいろ、中にはご飯を中心に、たまねぎ、パセリ、ミント、松の実なんかが詰まっている。
ビベル・ドルマス:ピーマンのドルマ。ドマテス・ドルマス:トマトのドルマ。ヤプラック・ドルマス:ぶどうの葉っぱに包んだ「巻物」という感じだが、ドルマの仲間として扱われる。ミディエ・ドルマス:ムール貝の詰め物。ムール貝の身とご飯が貝殻のなかにつめられている。うまい。
ドルマは普通、食べるときにレモンを搾る。
(ゼイティンヤール)ターゼ・ファスリエ:インゲン豆のオリーブオイル和え。夏はうめぇんだ、これが。パトゥルジャン・サラタス:ナスのペーストにんにく入り。私の好物。パンにつけて食べる。パトゥルジャン・クザルトゥマス:ナスの炒め物ヨーグルト和え。ヨーグルト無しバージョンもあり。私はヨーグルト無しのが好き。イマーム・バユルドゥ:ナスの野菜詰オリーブオイル漬け。ナスのなかにトマトやたまねぎを詰め、オリーブオイルに漬たもの。これもうまい。なんでも、イマーム(というのはモスクの坊さんというか、宣教師というか、まあ食べ物の話じゃないからどうでもいいや)があまりのうまさに大喜びしたというのが名前の由来だそう。クル・ファスリエ・ピラーキシ:ピラーキといえば普通これ。白いんげん豆とたまねぎ、トマトをにんにくと炒めて、冷やしたもの。ピヤーズ:豆のサラダ。普通はレモン風味オリーブオイルドレッシング。エズメ:ナスの実とうがらし和え、辛い!ジャジュク:きゅうりのヨーグルト和え。
ベヤーズ・ペイニール:白チーズ。酒飲みにはたまらん!ベイン・サラタス:羊の脳みそサラダ。そんなに変わった味はしない。それほどうまいものでもないけど話のタネに。カウン:メロン。これが意外。トルコではメロンを中心として果物を酒のつまみにもするので先に持ってくる。
揚げ物では、シガラ・ボレーイ。春巻き風になっていて普通はチーズが入っている。「細チーズ巻揚げ」という感じ。
必ずしもテプシには載ってこないので、注文しなければならない。しかし酒の肴には最高。イスタンブルはじめ海に近い街なら食べられる。
カラマル(イカ)といえば普通、リング揚げになって出てくる。これがなかなか侮れない代物で、芯がなくさっくり揚がっている。ミディエ(ムール貝)も揚げることが多いが、ムール貝は揚げるとちょっと脂っこい。ハムシ(カタクチイワシ)はマリネになって出てくるやつがいける。
カリデス(エビ)はサラダとして出されることも多いが、うまいのはたっぷりのチーズでオーブン焼きにしたカリデス・ギュウェジ。魚介を置いている店ならかなりの店で食べられる。
思いつくままに「今食べたいもの」を書いてしまった。
辞書には「メゼ=前菜、オードブル」と書いてあるが、私に言わせればこれは誤訳である。トルコの場合、メゼだけ食べて店を出てもまったく問題はない。メゼの後すぐにデザートやコーヒーを頼んでも一向に構わず、食後酒までサービスしてくれる。
強いてメゼに訳を付けるとすれば、「食事の最初から食べる冷菜を中心とした料理」というのが適当だと考えている。アルコール類と一緒に食べる場合には、日本語の「酒の肴」という認識が一番近い。メゼはメゼなのであり、西洋料理のコースという概念にとらわれていると理解不能になる。
トルコ料理の「フルコース」には前菜と主菜という区別は無い。分類するとすれば、冷菜を中心としたメゼと、温かい料理という2種類に分けるのが相応しい。
トルコ人がごちそうを表現するとき、「冷たくておいしいメゼがたくさんある」という表現は頻繁に使われる。しかし、温かい料理(料理法)の代表格「ケバプがたっぷりある」と表現することはまずない。前述したように、レストランでの食事では温かい料理が端折られてしまうこともある。温かい料理は後から食べる習慣というだけであり、メイン・ディッシュとしての実体は備えていないのである。
しかし西洋の視点から見れば、メゼの後で食べる温かい料理は「メイン・ディッシュ」として理解されてしまう。トルコにおける評価を超えてケバプを世界中で有名にしてしまった原因は、この部分にあると考えている。海外の情報の多くを欧米経由のルートに頼ってきた日本もまた、本来しなくても良かった誤解をしてしまう結果になった。
さて、メインにはならないと言っても、温かい料理が不味いということではない。冷菜を中心としたメゼの後では、やはり温かいものが恋しくなる。温かい料理は個別の料理名よりも、料理法を踏まえて分けてみると理解しやすい。
恐らく思いつくであろうケバプ(kebap)は焼き物一般の意味である。焼くのは主に羊の肉だが、肉の種類(羊、鶏など)が付属して料理名を作ることはない。一方、野菜の名前を付属させて料理名を作ることは多い。パトルジャン・ケバブ(ナス)のような例である。野菜の名前で修飾されたとしても、ほとんどの場合、肉(羊)が同時に使われる。
同じ焼き物でも串に刺したものはシシ(şiş)。網焼きにしたものはウズガラ(ızgara)。これらの場合念頭にある素材は肉類で、なにも言わなければ羊肉(エト:et)。頭にタウックを付ければ鶏肉、ピリチを付ければ若鶏。
ウズガラをのぞき、通常これらの料理では肉をタマネギやオリーブオイル、香辛料でつけ込んでから調理する。単純に焼いただけではなく、軟らかくてうまい。
鉄板に載せたオーブン焼きはギュウェチ(güveç:guvec)になる。食べられるのは釜のある店に限られるが、ビールやワインを大量に飲んだ後には胃袋が暖まり、非常にうまい。市中にはギュウェチ専門の店もあり、それらの店では汁気が多く深めの器に入れられたものが出される。しかしレストランでは平らな鉄板に肉や野菜を一口大にしたものを載せることが普通。たっぷりチーズがかかっている。
牛肉は普通ビフテキ(biftek)として出される。ステーキである。フライパンで焼かれているか、網焼きになっているかは店によってさまざま。ソースが今ひとつなことが多く、肉料理の中ではつまらないものかもしれない。
魚料理の場合にも調理法は共通する部分が多い。鮮度が良さそうなものであればウズガラ。鯛の仲間チュプラ(çupra:cupra)がうまい。醤油や大根おろしを持参してもおいしくいただける。ムニエルに近い揚げ物タワ(tava)にされることもよくある。
鮮度のよいものに当たれば日本よりも格段においしいが、魚料理に関しては日本の方が充実している。凝った料理法を想像していると、期待はずれになるかもしれない。
温かい料理はメゼと違って注文を受けてから調理するものばかりになる。メゼのように出来あがったものを見て選ぶことはできず、メニューから選ばなければならない。
「なにがあるのかさっぱり見当がつかない」という場合には、厨房に行って材料を見て選ぶという手もある。実はトルコ人も材料の鮮度を確かめるために結構やるので、普通いやな顔はされない。魚を注文する場合には、生の状態でテーブルまで持ってきて品定めをさせてくれるので、気に入ったものを選べる。
温かい料理の場合、野菜を中心とした充実した付け合わせがつく。わざわざサラダを頼む必要はほとんどない。量は少ないが、付け合わせにピラウ(バターライス)も載せてくれることが多い。
デザートタトゥル(tatlı:tatli)として何を置いているかは、店次第の部分が大きい。四角いケーキのシロップ漬けテル・カダユフ(甘い)などのほか、別のセクションで取り上げているプリン類を用意していることもある。
季節の果物、例えば夏ならカウン(メロン)、カルプス(スイカ)は非常においしい。日本とはものが違う。市場へ行くと日本では信じられないような値段でそうした果物が売られている。レストランではそれなりの価格になってしまうが、前述したようにメロンを中心とする果物が「酒の肴」として食べられるせいか、レストランの果物は特に品定めが念入りなようだ。デザートと同時に、トルココーヒーやチャイも注文しておこう。
ヘサップ(hesap:勘定)をたのんで待っている間には、緑色の食後酒が出てくるのが普通。この食後酒、ミント味が多い。口の中がすっきりするので個人的には好きなのだが、「歯磨きみてえだ」と言われたこともあり、好き嫌いは分かれるかもしれない。
欧米の食事と決定的に違うのは、ひとつの皿から料理を取り分けて食べることが原則になっている点(家庭での食事がこういう習慣だから)。日本の人からみればまったく違和感のない話なのだが、欧米人にはこれが絶対にできない。トルコではお皿をシェアすることをしないと、食べられる料理の種類が減って大損する。
トルコのレストランというもの、皿を下げるのがむちゃくちゃ早い。メゼを何品もたのむとテーブルの上が皿でいっぱいになる。こういう状況は要注意である。例えば、後から食べようと思ってイワシのマリネを一切れだけ残しておいた皿なんかは、あっという間に餌食になって下げられる。遠慮なく止めるように。
どうやらトルコ人はテーブルの上に食い散らかしの皿が残っているのが嫌いらしく、それゆえ店の方でもサービスと心得てせっかちに皿を下げようとするようだ。同じ理由で、メゼの取り皿がちょっと汚れただけでも新しいのに換えてくれたりするのは気持ちがいい。さらに、食べてるうちに付け合わせとぐしゃぐしゃになってしまった魚の皿を、魚だけきれいな別の皿に移してくれたりもする(知らないとあせるが)。
こういう食事をした場合のお値段がどのくらいになるのか気になるところだと思う。大雑把には料理よりもアルコール類をどのぐらい飲んだかによって変動する部分が大きい。
私の場合、まずはビールで乾杯し、メゼを好きなだけ注文する。そのあとワインを1人1本弱あけるのがいつものパターン。これでおおよそ、1人あたり2000~3000円の範囲になる。トルコでは魚介類はどちらかというと高級なものと捉えられているので、温かい料理に魚を注文するなど魚介を中心にした場合にはこれよりも少し高めになる。高級ホテル(4つ星、5つ星)に入っているレストランはこれよりも相当割高。
どの店でも一応メニューは置いてあるが、必ずしもメニューに値段が書かれているわけではない(良心的な店でも)。というのは、材料によっては時価のものが多く、いちいち書きこんではいられないということのようだ。
さらに本当にうまいのは、その日たまたま入荷したものであったりする。こうした食材の料理は店先の黒板に殴り書きされていたり(もちろんトルコ語)、いっさい表示せず馴染みの客にだけ勧めることもある。
外国人で料金に不安のある場合には、最初に予算を決めて交渉してしまってもよい。メゼを選ぶ楽しみなどはなくなってしまうが、こういう点に関してトルコ人の「察し」はすばらしく、ほとんどの場合柔軟に対応してくれるであろう。
トルコでは「料金の何パーセント」というふうに決まったチップのルールはない。それでも、レストランでご馳走を食べたときにはチップを置くのが普通。私の場合、料金の1割までを目安に渡すようにしているが、例を挙げてみる。
例えば2人で5600万リラの請求だったとすれば(2004年はじめの例)、2000万リラ札3枚で6000万リラを渡す。おそらく100万リラ札4枚で釣りが返ってくるが、そのままにしておく。しばらくするとガルソンが礼を言いつつチップとして受け取ってゆくであろう。サービス次第で100万リラ札1枚を抜くかもしれないし、サービスに問題がなければ100万リラ札を財布から出して追加するかもしれない。
請求書は折り畳まれたバインダに入ってくるか、爪楊枝と一緒に小皿に載せられるかのいずれかで届けられる。バインダの場合には支払いを入れた後、バインダを閉じておく。小皿の場合には、札の上に請求書あるいはテーブルのナプキンを載せる。札ビラが見えるように金を渡すのはあまり行儀が良くないと思われているようなのでこうする。チップを渡すときも同様である。ついでに、しわくちゃの札(札はあまりきれいでない)は、いくらかでもしわを伸ばしておくと一層よい。