http://turkey.tabino.info/ (1):表紙
「遅い」「遅れる」と言われ続け、なにかと評判のよくないトルコ国鉄ですが、私は結構気に入っています。背が高い方なので「バスの座席に長時間縛り付けられるのは辛い」ということに加え、長距離列車には食堂車がついていることが多く、一杯ひっかけられるのも魅力。「ずーっとじっとして」いなければならないバスよりもかなりらくちんです。
長距離の急行列車はかなり快適。列車の旅お勧めルートのセクションでは、こうした列車のうち使い勝手の良い区間をピックアップしてみた。スピードはバスより遅くても、時間帯に優れている分、旅行のスケジュールづくりに便利なルートがいろいろある。
紹介しているルートではイスタンブルとアンカラを結ぶ昼間の列車を除き、個室の寝台車(ヤタクル)や食堂車が連結されている。寝台車を利用すれば夜行バスよりも快適で、体力の消耗も少ない余裕ある旅行ができる。
長距離列車は年々少しずつスピードアップされており、時刻は変更もあり得る。トルコ国鉄のWebサイトで確認してほしい。同サイトには料金も掲載されている。
一方、ローカル列車は格段にスピードが遅く使っている車両も古い。長距離列車を先に通したり、ほとんどを占める単線のルートでは対向列車の待ち合わせで長時間待たされる。
利用する列車ごとに決まっていて選ぶことはできないが、大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは古くからあるタイプで、かなりくたびれた車両もある。内装には木材が使われている部品も多い。よく言えばノスタルジック(トルコ人が好きなことばのひとつ)。冷房は付いていない。冬の暖房は効きすぎていることが結構ある。
もうひとつはTVS2000というタイプの新しい車両(トルコ人はバスといい列車といい、乗り物の型番にやけに詳しい)。アダパザルの工場で着々と量産中らしい。白地に赤と紺のラインが入ったこのタイプは、冷暖房完備で窓が開かない近代的なもの。快適である。しかし内装は新建材で出来ていて、なんとなく旅情がないというか、味気ない感じもする。
それぞれについて、以下のような設備を備えたグループに分かれている。
個室の寝台車。長距離の夜行列車なら迷わずこれにすること。新しいタイプは2段ベッドで1部屋2人まで、古いタイプは3段ベッドで1部屋3人まで使える。料金は利用する人数により異なり、1人の場合が一番高く、3人で使えば(かなり窮屈になるが)1人あたりの料金は一番安くなる。
ベッドは座席の背の部分の壁に格納されていて、車両ごとに専属の寝台車係がベッドメイキングをしてくれる(食堂車へ行っている間に出来上がっていることが多い)。トイレは共用だが洗面台は部屋ごとにある。外からカギをかけることは出来ないが、客層も良いうえ寝台車係が見ていてくれるので、荷物の心配はほとんどない。
古いタイプの車両はだいぶんくたびれているが掃除はしっかりされており、リネンなどは清潔。暖房は部屋ごとに調節できる。新しいタイプの車両は当然快適ではある。しかし、古い車両に比べて部屋が狭くなったようだ。トルコにもコストダウンの嵐が吹き荒れるのであろうか。
個室にはなっていない寝台車。日本のB寝台とほぼ同じ。通常は2段ベッドで1区画4人だが、3段ベッドで1区画6人のものもあるようだ。区画ごとで男女別になっているが、家族連れどうしで相部屋になることはある。部屋に洗面所はなく、ベットメイキングもセルフサービス。
長距離バスとほぼ同じ料金で横になれると考えればかなりお買い得。しかし、もうひとがんばりしてヤタクルにした方がコストパフォーマンスはよいと思う。というかヤタクルにしろ!
座席車。プルマンの方は日本の列車と同じようなイメージ。長距離列車の座席車はこのタイプが主流で、横3列と4列の2種類ある。コンパルトマンルの方は6人ずつの区画に区切られたヨーロッパ式の車両。コンパルトマンルには女性専用の区画が用意されている。
食堂車。ほとんどの長距離列車に連結されている。市中のレストランに比べれば高いが、ワインを頼んでも2000円あれば十分に楽しめる。料金は定価。端数を繰り上げる程度のチップを渡す客は多いようだ。
一皿の量は多くないものの、味は悪くない(実は国鉄の食堂車で出されるカスタード、ケシュキュルが好きだ、ハハ)。19:00前後からしばらくは食事ものを頼まないと利用できないが、その他の時間帯は飲み物だけでも構わない。とにかくトルコの食堂車は楽しい。特に、夕暮れ時にイスタンブルやイズミルを出発する列車に乗り、海を見ながら食事を楽しむと最高。
なお、座席が禁煙になっている列車でも食堂車では喫煙が可能なので、タバコを吸わない場合は時間をずらして空いているときを狙った方がいい。
アンカラ、イスタンブルの両方から10:00前後に出発するバシュケント・エクスプレシ(Başkent Ekspresi:Baskent Ekspresi)と、14:00すぎに出発するジュムフリエット・エクスプレシ(Cumhuriyet Ekspresi)の2本は車両も新しく快適。6時間半~7時間かかりバスよりもやや遅いが、横3列の座席で非常にゆったりしているうえ、食堂車も付いていてリラックスできる。比較的最近開通した高速道路よりも途中の景色は良い。特に全区間を明るいうちに走るバシュケント・エクスプレシの場合、列車の旅を堪能できると思う。座席は禁煙だが出入り口部分ではタバコを吸える。
22:00すぎに出発して8:00ごろ目的地に到着するアンカラ・エクスプレシ(Ankara Ekspresi)が一番快適。乗客の乗る車両はすべてヤタクル(個室の寝台車)。時間帯もよく、アンカラから先でバスに乗り継ぐスケジュールを立てると、体力を消耗する夜行バスの旅行を避けていろいろな目的地に行けるので、観光客にも使い勝手はよい。しかし、距離が近すぎるせいで景色が見えないことが欠点。旅行を楽しむ目的には向いていない。距離の割に料金率も高めで、ヤタクルをひとりで使った場合4000円以上になる。基本的にビジネス列車で、自分の金で乗っている客は少ない感じがする。
列車の利用が断然有利なルート。夜行列車のメラム・エクスプレシ(Meram Ekspresi)が非常に便利。時間帯も抜群。コンヤからバスに乗り継げばカッパドキア方面に向かう旅行や、クズカレシなど地中海東部の海へ行く旅行にも使える。
これも列車を勧めるルート。時間帯の良い夜行列車パムッカレ・エクスプレシ(Pamukkale Ekspresi)がある。パムッカレをさっと観光した後、アンタルヤやフェティエに向かったりエフェスの遺跡に移動したりと応用範囲が広く使い勝手の良い列車。ダルヤンの泥湯温泉へ行く場合にもこの列車を使うと無駄のない旅程を組める。
ドウ・エクスプレシ(Doğu Ekspresi:Dogu Ekspresi)がイスタンブルからカルスまで2000kmに迫る長距離を40時間近くかけて走る。バスよりも10時間前後余計にかかるが、寝台車なら横になれる分、疲れは感じないと思う。列車の旅を満喫したい場合には試してみる価値がある。景色はいろいろ変わるので、思ったより飽きない(つまり、乗ってみたわけだ)。まあ普通飛行機を利用するが...。
使いやすい時間帯にドクズ・エイリュリュ・エクスプレシ(9 Eylül Ekspresi:9 Eylul Ekspresi)、イズミル・マヴィ・トレニ(İzmir Mavi Treni:Izmir Mavi Treni)の2本、夜行列車がある。エーゲ海方面の旅行にサフランボルやカッパドキアなど内陸の観光地を付け加えた意外な組み合わせのスケジュールを作れる。
エルズルム・エクスプレシ(Erzurum Ekspresi)で20時間強。これだけは乗ったことがない。同じ区間でバスを利用すると12時間。個人的には横になれる分列車の方を選びそう。
料金はかなりお安い。長距離列車で個室の寝台車(ヤタクル)を利用しても同じ区間を走るバスの数割増し程度、クシェトリ(個室ではない寝台車)でバスとほぼ同じ、座席車(プルマン、コンパルトマンル)ならば激安である。
料金で独特なのは、日本風にいうところの特急券や寝台券に相当する部分が列車ごとに違っていること。同じ区間でも乗る列車によって料金はまちまちになる。距離が近いからといって必ずしも安いわけではないのが、利用してみて少しびっくりする点だと思う。
学生割引には国際学生証(ISICカード)が必要。切符を買うときだけでなく、列車に乗ってからの検札でも確認されることがよくあるので「他人の学生証で切符を買う」ようなセコイまねはしない方がよい。
長距離列車はすべて座席指定。空席があれば出発間際でもチケットを購入できるが、できるだけ事前に席を確保しておいた方が無難。
東の方に向かう長距離の寝台車はかなり混雑している。夏休みなどは1週間前でも取れないことがある。そのほかのルートは当日でもどうにかなることが多い。
一応席の管理はコンピュータ化されていて、イスタンブルやアンカラ、イズミルに関しては、ほかの駅から出発する切符も問題なく買える。例えばイスタンブルのヨーロッパ側にあるシルケジ駅では、アジア側のハイダルパシャから出発する列車の切符も簡単に手に入る。しかし、いなかの駅となると話は別。端末がないところも多いようなので当てにしない方がよさそうだ。
駅の地下道をイスタンブルからの進行方向右へ(大きな駅舎ではない方、南側)。アーケードを抜けた突き当たりで地上に上がれば、地下鉄のマルテペ(Maltepe)駅があり、そこからアシュティ(Aşti:Asti)行きの電車に乗ると終点がオトガル。
長距離列車の多くが発着するバスマネ(Basmane)駅の建物を出て右へ(北側)。2、3分歩いたロータリー、ドクズ・エイリュル・メイダヌ(Dokuz Eylül Meydanı:Dokuz Eylul Meydani)には多くのバス会社オフィスがあり、オトガルまでセルヴィス(送迎車)で送ってくれる。オトガルからも乗ってきたバス会社にバスマネまでのセルヴィスを聞いてみる。
なにしろお値段が安いので、座席車に関していえばあんまりお金のない人が多い。しかしイスタンブルとアンカラを結ぶ昼間の列車など、日中だけ走る長距離列車の座席車は別。クシェトリでは割引のある教員やお年寄り、学生が多い。
長距離列車の個室寝台車になるとだいぶん事情が違い、出張のビジネス客などが多いようだ。長距離バスに比べると子供連れも目立つ。
ヨーロッパから旅行してくると一番違うのがここ。列車の行き先には「İstanbul:Istanbul」とは書かれておらず、イスタンブルでその列車が着く駅が書かれている。アジア側の場合にはハイダルパシャ(H.Paşa:H.Pasa、通常このように略される)、ヨーロッパ側の場合にはシルケジ(Sirkeci)になる。
同様に、イズミルではバスマネ(Basmane)、あるいはアルサンジャク(Alsancak)。アンカラはそのまま。日本と同じシステムではあるものの、知らないと戸惑うかもしれない。
ホームは行き止まり式になっていて、前の方と後ろの方で違う列車が止まっていることがある。となりのホームに行く地下道や歩道橋がないので、間違えると重たい荷物を担いでとんでもない距離を歩くハメになる(経験者は語る)。
列車の旅は思いのほか快適であるうえ、交通事故の危険も少なく、個人的にはお勧めしている。しかしどういうわけか「どのくらい遅れるのか?」「乗っても大丈夫なのか?」という質問を頻繁に受ける。職人気質な国鉄職員の方々の名誉のためにも、これまで列車を利用した際の記録を整理してみた。
長距離列車を利用した移動のうち、記録が残っているものは29件あった。このうち遅れたことを記録しているのは3件であり、それぞれ25分、45分、1時間10分の遅れ。わずかな遅れについては記録していないので、ほかにも時間どおりでなかったものが含まれているかもしれないが、少なくとも大幅に遅れるケースが頻繁にあるということはなさそうだ。
これらのデータは「幸運の重なった」ものであるかもしれない。しかし、バスも飛行機も遅れるときにはやはり遅れる。列車の旅が飛び抜けて遅れやすいものとは、どうみても考えにくいと思っている。
それにしてもなぜここまで悪評をたてられるのか、理解に苦しむものがある。「国営」の国鉄を利用しても観光産業にとってうまみがないから、と想像するのは考えすぎだろうか。